では、なぜインターンシップなのか
唯一の望みは、インターンシップの結果、正規雇用のポジションが手に入るかもしれないこと。そして、履歴書に箔が付くということです。
ただし、直接的な理由ではないので不十分であることに違いはありません。結局自分の希望する分野で他と差を付けたいのであれば、ある程度の犠牲が必要ということなのかもしれません。
しかし、インターンシップの普及で大きな疑問が生まれているのも事実です。インターンシップは雇用市場を歪めるだけでなく、裕福な人間だけに許される職種さえ誕生させてしまうのではないか、という疑問です。
不景気の経費削減のためにインターンシップを利用している雇用者もいます。このことについては、きちんと調査も行われていて、それを示す証拠もあるようです。
実際に、今まで新卒生たちが就いていた仕事が無くなり、インターンシップに成り代わっているのです。そして、そのインターンシップ枠でさえ、仕事を求める新卒生たちによって埋め尽くされています。
インターンシップの実情
「我々がわかったことは、この山のような新卒生たちが、無給の仕事に就いていること。そして、その結果、就職口が大幅に減ってしまっていることです。」
このように語るのはトライさんです。彼はインターンとして働く新卒生たちのリアリティーを追求した「Interns Anonymous(匿名のインターンたち)」というウェブサイトを運営しています。
「企業が求めているのは、16000ポンドや18000ポンドも支払わなければいけない人材じゃないんだ。タダで働いてくれる新卒生なんだよ。正規雇用の可能性を目の前の餌にしてね。その餌が実際にインターン与えられることはほとんどないから問題なんだ。」
トライさんはマンチェスター大学で歴史の学位を取得した後、ウェストミンスターのシンクタンクで自身も3ヶ月間インターンシップを行いました。結局、彼もインターンシップを終えた後、仕事を得ることはありませんでした。
「それだけじゃない。何ヶ月も働き続けて、結局仕事がないと言われた例も知っている。ある女性はスラウからロンドンまで、片道1時間かけて7ヶ月間毎日通っていた。交通費だけでもバカにならない出費だ。でも結局最後に、ただ『仕事はない』と言われただけだった。」
と、彼は付け加えます。
もし6ヶ月間仕事にありつけず、生活保護を受けたとしても、インターンは結局求職者手当しか受けることができません。また、卒業後仕事が無いからといってすぐに支給されることはまずありません。住宅手当も家族と一緒に住んでいるのであれば受けることができないのです。
さらに、インターンを企業に仲介するビジネスも興っています。インターン1人あたりの紹介料は500ポンド(日本円でおよそ7万円)です。その手のサービスは、あえてインターンシップを「省コストで」従業員を揃える理想的な手段として宣伝するところもあります。インターンは「給与も、ボーナスも、給与税に関わる煩雑な手続きも必要ない」と言うのです。
給与以外の問題
お金の問題以外でも、雇用市場への影響を考えると、インターンシップには弊害があります。実際に、いくつかの職種で、インターンシップがあるがために就職が困難になっている仕事があるようです。
ロンドンでのインターンシップの平均期間は3ヶ月です。その期間中、収入の無い学生は、経済的な支援をどこかから受ける必要があります。裕福な家系であったり、貯蓄から潤沢な資金を引き出せるのであれば、問題はありません。しかし、普通はそうもいきません。
ハリエットさんは22歳。彼女はヨーク大学で物理と天体物理学の学位を取得しました。そして、学費を工面するため、18000ポンド(およそ250万円)の借金を抱えました。彼女の母親は調理師で、娘が大学を卒業すれば、きっと、軍需産業や原子力産業といった、よい仕事に就けると信じていました。
しかし、卒業から8ヶ月。ハリエットさんが母親の思い描いた軌跡を辿ることはありませんでした。経済的にも輝かしいキャリアを手にする代わりに、娘は実家に帰ってきました。3ヶ月間、求職者手当として週に50ポンド(およそ7000円)受け取り、彼女は美容関係のお店でアシスタントのアルバイトをしています。2日間で彼女が得た収入はわずか80ポンド(およそ1万円)。
もちろんハリエットさんは、インターンシップをすることが嫌なわけではありません。実際問題、経済的な理由から、やろうと思ってもできないのです。
「インターンシップを考えたことはあるけど、私の最優先事項は、生活のためのお金を稼ぐことなの。」
と、彼女は語ります。
「貯金もないし、今の状態じゃあ貯金する余裕もないの。だからインターンシップは今のところ論外よ。それに…」
と、彼女は続けます。
「大学に行ったのは、仕事を得るためなの。誰かのためにただ働きするためじゃあないわ。」
オックスフォード大学で進路指導にあたっているジョナサン・ブラックさんも、インターンシップの問題に対して考えるところがあると言います。彼は生徒のためにインターンシップを行ってくれるよう、企業に交渉する立場にあります。そのインターンシップに費やされる費用は8000ポンド、日本円で100万以上にもなります。
最近はインターンシップの座がオークションにかけられることも少なくありません。人気のインターンシップともなれば通常の3倍の値を付けることもあります。学生がインターンシップをするために費やさなければいけない費用はどんどん嵩んでいく一方です。
このやりとりについていけるのは、ごく一部の富裕層でしかありません。ブラックさんは、学生にはできるだけ給与の支払われるポジションに直行できる道を勧めていると言います。また、政府が新たに打ち出した新卒生向けののインターンシップ基金に、イギリスの大学が難色を示しているのもこのためです。
「この法案には賛成できません。なぜならインターンシップは、在学中の学生のためにあるべきだと考えるからです。卒業したら、収入を得て仕事をするんです。とても簡単な話です。」
と、ブラックさんはコメントしています。
言うまでもなく、たくさんの人が、インターンシップは仕事を得るために行われるものだと意見するでしょう。そしてそれには何らかの報酬が支払われるべきです。法の取り決めのなかでも、労働者は最低限の収入を得られると述べられています。
法の解釈は様々ですが、労働のようなものに過ぎなくても、仕事の代価は支払われるべきでしょう。しかし、インターンシップが例外となるのもまた、法が定めていることです。
インターン側にも問題はある?
問題は、自分たちの扱いに不満があることをきちんと述べる人が少ないということです。フリーランスでテレビ番組のプロデューサーを務めるマーク・ワトソンさんもこの状況をよく理解しているようです。
彼は職場で、仕事を得るのに必死な新卒生たちを今まで何度も見てきました。プロダクションに給与を支払うよう説得し、新卒生を助けた経験もあります。
しかし、彼が言うには、それでも波風は立てたくないと、考えたがるインターンが多いようです。
「辛いことがあっても、彼らは肩をすぼめて、これもよい社会経験だと考えようとする。」
と、ワトソンさんは説明します。
「そのことを責めたりはしない。だけど、そのことで、悪質な環境を生み出していることは確かだろう。それが普通になってしまうから。結果的にどんどん彼らから収入のある仕事を遠ざけてしまうんだ。」
この夏、イギリスで卒業した学生たちへのメッセージはとても明確です。就職活動に、大学の良い単位だけでは十分ではありません。

The slave labour graduates: Cynical firms are forcing thousands of high flyers to work for nothing - or even making them pay for the privilege
http://www.dailymail.co.uk/news/article-1255323/The-slave-labour-graduates-Cynical-firms-forcing-thousands-high-flyers-work--making-pay-privilege.html